2009
cineMa
top 5
1 人生に乾杯! KONYEC(ハンガリー)
2 ベンジャミン・バトン The Curious Case of Benjamin Button(米国)
3 スラムドッグ$ミリオネア SLUMDOG $ MILLIONAIR(英国)
4 3時10分、決断のとき 3:10 TO YUMA(米国)
5 僕らのワンダフルデイズ(日本)
 2009年は、暇あらば映画館に足を運んでいた。綾瀬はるか主演の「ハッピーフライト」に始まり、巨匠アンジェイ・ワイダ監督の「カティンの森」まで34作品に出会った。ジャーナリストの筑紫哲也さん(2008年逝去)は、年間400本見ていたというからすごい。大部分はDVDらしいが、毎晩寝る前に1本見るのが日課だったそうだ。それだけ見ている筑紫さんが、「それをもってして、自分で映画が分かったなどと思うな。自分が知らないことがいっぱいあるんだということを知っていた方がいいんじゃないかと思う。」と、著作「若き友人たちへ」の中で述べている。同感である。社会人になってすぐの頃、ある先輩に言われたのもこれと同じだった。曰く、「象の尻尾を触って、象を語ってはいけないよ。」なぜ、象が例えだったのかわからないが、いつも忘れないようにしている大切な言葉である。

 例年のことだが、年が明けると、米アカデミー賞が話題になる。2009年の場合は、「ベンジャミン・バトン」と「スラムドッグ$ミリオネア」に話題が集中していたと思う。結果的に「スラムドッグ$ミリオネア」が圧勝したのだが、僕はどちらもかなり好きで、全く甲乙つけ難かった。「ベンジャミン・バトン」は、100年近く前に書かれたフィッツジェラルドの短編小説がベースになっているが、80歳の身体で生まれるという着想が面白い。どんどん若返る夢のような話だが、愛する者と一緒に歳をとれない悲劇を味わうことになる。光の裏側には必ず陰ありということだが、逆も真なりで、陰ばかりということもなく光はどこかしらにあるということをこの作品は正当に評価していると思う。名文を味わうような詩的で深い味のある秀作だった。一方、「スラムドッグ$ミリオネア」のパンチ力は凄まじかった。世界的な人気テレビ番組「クイズ$ミリオネア」にスラム出身の青年が出演し、次々と難問をクリアしていくという筋書きだが、想像を遙かに超えたすごいドラマが展開する。クイズの難問以上に困難な現実に立ち向かう主人公の勇気とひたむきさには、誰もが心打たれるであろう。これら2作品と全く趣の違ったハンガリー映画が「人生に乾杯!」で、個人的な好みとして2009年のベスト1とした。本格的な高齢化社会になり、わずかな年金暮らしの厳しさを背景としながら、それに屈しない老人の突飛な行動がユーモアたっぷりに描かれる。主人公のとぼけた雰囲気もさることながら、肩の力を抜きつつ人生を謳歌しようといういい意味での脱力感がとても心地よかった。「スラムドッグ$ミリオネア」の少年や「人生に乾杯!」の老人といった社会的弱者が窮地に陥りながらも這い上がっていく姿は痛快であり、行き過ぎた格差や過剰な競争に明け暮れる今の世界に一矢報いたような気もする。その一方、「決断の3時10分」(57)のリメイク「3時10分、決断のとき」の主人公ベン・ウェイドは圧倒的に強くて、カッコよかった。銀行強盗をして暮らしてるワルなのだが、どこか憎めない人間味を感じさせるキャラクターは、ラッセル・クロウならではであろう。こんなに頭がよくてタフな心をもった人間はなかなかいないだろうけど、窮地に立っても決して諦めないしぶとさは誰にも必要である。日本映画「僕らのワンダフルデイズ」は、竹中直人が役にはまっていて、笑えて泣けた。思いっきり笑ってできた心のゆとりに感動がどわ〜と流れ込んでくる感じがした。八方ふさがりと思えるときも、とりあえず笑ってみたらいいのかもしれない。そうそう、「重力ピエロ」の中で小日向文世扮する父さんがいう台詞も同じだった。「楽しそうに生きていたら、地球の重力なんて消してしまえるんだよ。」これもまた、2009年に出会ったとっても好きな作品である。年末にみた「カールじいさんの空飛ぶ家」もいい話だった。何歳になっても夢が必要なこと。そして、失ったものよりも、今ある小さな幸せに手を伸ばしてみることの大切さをこの映画は伝えているように思う。

 2009年の「今年の漢字」は「新」だった。新しい鳩山政権が誕生し、米国もオバマ新大統領になり、新型インフルエンザの発生、栽培員制度やエコポイントなどの新制度ができ、これから新しい時代がはじまる予感がする1年だったということのようだ。だが、その新政権も金にまつわる疑惑でがたつき、オバマ大統領も景気対策の遅れやアフガニスタンへの派兵問題などの難問山積で支持率を下げてきている。「期待はずれ」というは容易いが、誰がやってもそう簡単にはいかないのではないだろうか。グローバル社会ということも日々喧伝され、浸透してきた。世界中で競い合い、協力して、より優れた技術開発やサービス向上を急速に進める。医療も高度化し、電化製品などの充実、太陽光発電をはじめとするエコ技術の発達などにより、人間の生活はより快適でしかも環境と調和したものになっていくのだろう。誰も異を唱える余地はなく、どんどんアクセルを踏み続けていく。しかし、陰の部分もある。それらの快適さや便利さを享受できるのは、激しい競争に勝ったものだけなのである。高額な医療費を払えるものだけが健康と長寿を手に入れることができる。手に入れたければ金を稼ぎなさいという経済至上主義のような世界が、本当に人間を幸せにすることなのか、ふと心配になるときがある。このつづきは、2010年の映画をみながら、考えてみたい。