3時間を超えるライブが終わったとき、観客席のあちこちからすすり泣きが聞こえた。
「僕たちは、日本一幸せなロックバンドでした」というコメントが、頭の中でぐるぐる回転する。
これで終わり…。
館内の熱気とは裏腹に、外の空気は師走らしい冷たさで、ちょっと寂しくなった。
1曲目が「島唄」に驚く!THE BOOMに限らず、人気のある歌は大抵、ライブ終盤にとっておくものである。「島唄」は彼らの代表曲であり、まさかいきなりとは!2曲目の「YOU'RE MY SUNSHINE」は、ホーンセクションのイントロに始まるノリのいい歌。続く「Human Rush」、「TOKYO LOVE」、「berangkat-ブランカ」の3曲は「極東サンバ」からで、いずれもライブ後半の盛り上げタイプの楽曲である。武道館は、始まった瞬間にクライマックスを迎えたような熱気に包まれた。
自分の中でTHE BOOMは3つの時期に分けられる。ホコ天時代からの流れを組むスカ(ska)のリズム中心の初期、沖縄民謡、バリ民謡、ブラジル音楽などを取り入れ新たな音楽づくりに向かった中期、そして、初〜中期の集大成的に熟成されていった後期。アルバムで分けると、初期が1st「A
Peacetime Boom」(89)から3rd「JAPANESKA」(90)、中期が4th「思春期」(92)から7th「TROPICALISM
-0°」(96)、後期が5th「NO CONTROL」(99)から10th「世界でいちばん美しい島」(13)というところか。あくまで僕の勝手な分類である。3つの時期の音楽性はかなり違う。僕が彼らのファンになったきっかけは「思春期」に収録されている「島唄」だったが、今でも好きな歌は中期に集中している。とりわけ6th「極東サンバ」は群を抜いて、すばらしい。すでに3rd「JAPANESKA」で沖縄民謡っぽい「100万つぶの涙」を書いているが、その後バリ島を訪れた宮沢さんが着想を得て作った5th「FACELESSMAN」に「いいあんべえ」や「YOU'RE MY SUNSHINE」、「真夏の奇蹟」があり、次作の「極東サンバ」へと劇的な進化を遂げていく。この時期、ほぼ全曲の作詞、作曲を担う宮沢和史の才能が開花したといっていいだろう。「berangkat-ブランカ」などが代表例だが、イントロの作り方が実に巧みだし、サウンドづくり、音の重ね方が凝っていて、聞けば聞くほど味わい深い楽曲が量産された時期である。たぶん、その反動だろう、TROPICALISMツアーのあと、一時、活動休止になる
。
ファイナルだけあって、10月に行ったライブとは別物であった。曲数は10曲ほど多く、選曲も違うためか、何度もクライマックスがあった。THE BOOMが解散する事実を忘れている瞬間があったり、また現実に戻って思い出していたりを繰り返しながらの濃密な3時間であった。
アンコールを待つ間に、2階席の一部から始まったウェーブが武道館内を360度回った。こんな経験は初めてである。1周するのに1分くらいだろうか。その波は、徐々に1階席にも膨らみ、大きなウェーブとなっていく。ファンの気持ちがぐるぐると大きなうねりとなっていくようで、感動的なシーンだった。3〜4周したところで、バンドメンバーらが再登場した。anc1の「星のラブレター」は2ndシングルで、とても人気のある歌である。そして、いよいよ最後になるのか?「最後に歌う歌を何にするか、わりと簡単に決まりました」という宮沢さんのMCに続いて歌われたのは、「明日からはじまる」だった。「僕らの青春は 明日からはじまる」と繰り返される歌詞に、バンド解散後を見据えている感じが受け止められた。納得の選曲である。2回目のアンコールがあった。ステージにはTHE
BOOMの4名だけが立っていた。一人ずつ、コメントがあった。山川浩正(b)は持病を背負いつつやり遂げた満足感とともに安堵したようであった。小林孝至(g)は小学校の友達と始めた音楽人生の喜びを語り、栃木孝夫(d)はバンドメンバーへの感謝を述べ、会場をどよめかせた。宮沢和史(v)は、ファンへの感謝と多忙かつ充実した四半世紀を振り返り、音楽のすばらしさを語った。最後はアカペラで「愛のかたまり」という1stアルバムの歌が歌われた。「ありがとう」というメッセージの詰まった歌詞に、観客はしんみりと静まりかえってしまう。あちこちから聞こえるすすり泣き。音楽で世界中を旅してきた若者たちが、最後にまた東京へ戻ってきて、最初に歌っていた歌を歌いながら羽をたたむ。そんな印象であった。
音楽というと、僕は、ふと古代ギリシャの円形劇場を思い出すことがある。ギリシャに限らないが、音楽は神事として奏でられることも多く、選ばれし者が担う神聖な儀式という側面があることに、少なからぬ興味を覚える。今となっては、誰もが演奏し、歌い、種々の音楽で溢れているが、その中に、神がかった名曲が玉石混淆のごとく存在する。探し求めてきた玉のいくつかをTHE BOOMの中に見つけることができた。彼らの音楽を聴き続けてきてよかったなと思う。もう新曲を聴くこともライブで聴くこともないだろうが、これからもずっと彼らの音楽を聴いていきたい.
♪THE BOOM MOOBMENT CLUB TOUR 2014 -25 PEACETIME BOOM- FINAL
日本武道館
2014年12月17日(水)18:30-21:45 / 2階南スタンドJ列52番