夏の残り香





このなぜか短い季節が不思議なくらい好きだ。

梅雨前線の南下とともに、
ある日、突然現れる。
海も空も陸も人も丸裸にして、
ありふれた日々と
いくつかのドラマチックな想い出を
落としていく。

蝉の声、風鈴の音、夕立の匂いが
ある日、涼しげな秋の虫と
つるべ落としの日没に変わると、
この短い季節は、
何もいわずに去っていく。

あぁ、行ってしまうんだ…。
「また、来年!」と心の中で、
今年の夏は2度と来ないと知りつつ、思う。

薄くなってしまった夏の残り香が、
心の隅っこで微かに感じられた。
Latesummer by 赤ヒゲ