ふゆに生きる
 
 
 
 
 仕事から帰るいつもの道の向こうから、親子が4人、歩いてきました。
 母の胸には乳飲み子が抱かれ、両側にはまだ小学生にならない小さな男の子がふたり並んで歩いています。
 母子らが私の方に近づいてくるにつれて、歩いている男の子の小さい方の子が泣いているのがわかってきました。男の子は、母の前に立ちはだかるように後ずさりしながら、しきりに何かを訴えている様子でした。
 私のすぐ前まで来て、その子の声がさらに大きく聞こえました。
「だっこしてよ。だっこしてよ。」
そう言いながら男の子は、泣いているのです。
遠いところから歩いてきて疲れてしまったのか、それとも日が暮れて心細くなってしまったのか、私にはわかりませんが、とにかく、抱っこをせがんでいるのです。
 母はというと、抱こうにも一度にふたりは抱けず、この人もまた必死に歩いています。
「あと少しよ。がんばるのよ。」
わが子を優しく励ます母の気持ちと、それでも泣く男の子の気持ちとが、冷たい初冬の空気を伝って私の心に入ってきました。
 このようにして人は、逞しさというものを身につけていくのだと、少し明るい気持ちになりました。