「線は、僕を描く」
「ちはやふる」シリーズを大ヒットさせた小泉監督の最新作である。
「ちはやふる」は広瀬すずの魅力を最大限に活かし、
しかもカルタという一見地味な世界を超一級のエンタメ作品にしたところが斬新だった。
初監督作品「タイヨウのうた」(06)は全く面白くなかったので、同じ監督とは思えないのだが…(笑)。
今作、観るか迷っていた。
カルタの次は水墨画って、柳の下の二匹目のドジョウみたいだし、
予告編がよすぎて、逆に期待外れになりそうな怖さがあった。
結局、他に適当な映画もなかったので、ダメ元で観に行ったのでした。
映画をざっくり分けると、面白い↔つまらない、好き↔嫌いの組み合わせで4つに分類できる。
今作は僕にとって、面白くて好きな映画だった。
つまり、「最高・最強」である。
自分の中では「ちはらふる」を遙かに凌ぐ作品になった。
本作について、よく話題になるのは、水墨画の巨匠・篠田湖山(三浦友和)が見ず知らずの若者を弟子に誘うシーン。
あまりに唐突で、漫画的で、あり得ないともいえる。
なぜ、湖山がこの青年に声をかけたのかは、後に少し描かれはするが、それでもわからないという意見が少なくない。
職場の後輩は、このシーンが気になって原作も読んだけど、さらっとしか書かれてなかったと苦笑していた(笑)。
ただ、僕はまさにこのシーンに感動し、心を掴まれてしまった。
椿を描いた水墨画の前で涙する若者(横浜流星)のたたずまいに心を打たれた。
それを端で見かけた湖山が「何か」を感じて声をかけたのだが、
それは、水墨画という世界がテクニックの前に心で描くものだという本作の世界観に通じる大切な部分である。
たまたま同じクラスの友達と音楽を始めて、それが世界的バンドになったとか、
旅先で偶然声をかけた人と意気投合して、生涯の伴侶になったとか、
そういう奇跡は日常にもある。
それを嘘っぽく感じるか、リアルに感じられるかは、つまるところ「相性」のように思う。
そう考えたら、映画の分類は、面白い↔つまらない、相性がいい↔悪いの方がしっくりくるかもしれない。
やさしい言葉で、深遠なテーマを表現することに憧れがある。
例えば、タイトル「線は、僕を描く」である。
「僕は、線を描く」なら当たり前で平板な印象しかないのに、逆さにするだけでグッと世界が広がる。
勿論、単なる言葉遊びでは面白くないが、深い意味が込められているからこそ引き込まれる。
「自分が生きてきた人生、感じてきたものすべてがその人の描く線に表れ、
その線はさらに新しい自分へと導いてくれる」という湖山の教えにつながるこのタイトルは、
主人公が悲しみを乗り越えていく「再生の物語」をさり気なく象徴しつつ、
水墨画の世界観にも通じていて、しかも平易な表現でもあり、秀逸と思える。
この映画は、白と黒しかない水墨画ならではの「色」にも魅せられる。
筆の選び方、墨のつけ方、筆づかいを駆使して、真っ白な紙の上に唯一無二の世界を生み出していく。
音楽、台詞、演技が三位一体となって、映画だからこその表現力を堪能できる。
キャスティングも最高だった!
主人公の青山霜介(横浜流星)はもとより、師となる篠田湖山(三浦友和)の存在感、
湖山の身の回りを世話している西濱さん(江口洋介)のかっこよさ、
そして、ちょっとクールな湖山の孫・篠田千瑛(清原果那)のバランスがよかった。
TOHO上大岡
DATA
日本映画/2022年/106分/シネマスコープ/
監督(小泉徳宏)/脚本(片岡翔、小泉徳宏)/
プロデューサー(巣立恭平)/原作(砥上裕將)/音楽(横山克)/
出演(横浜流星、清原果那、江口洋介、三浦友和、富田靖子)